【写真】微笑んでLiveTalkを持っているまつだよしきさん

相手の意図がうまく汲み取れなくて、自分の意見を言うのをためらったり、メモや議事録を取るのに必死で議論に参加できなかったり…そんな経験がある人は少なくないはず。

「会話はキャッチボール」とはよく言われるたとえですが、会話の相手が時には複数人いるなかで、話の内容をテンポ良く理解し、自分の意見を相手に伝わりやすく即座に返す、というやり取りは、よくよく考えてみるとそれほど単純なことではありません。

ましてや、聴覚障害のある人にとっては複数人での会話は至難の業です。

テクノロジーの発展によって、今では手話や筆談に限らず、メールやチャット、クラウド上での文書の同時編集など、聴覚障害のある人の言語コミュニケーションを補助する手段はずいぶんと増えました。

しかし、会議やグループワークなど、複数人でのコミュニケーションが求められる場では、聴覚障害のある人がそうでない人に混じって、リアルタイムで会話の内容を把握し、自分の話したいタイミングで意見を伝えることはなかなか難しいことなのです。

今この場で、自分の言葉を伝えたい…そんな聴覚障害のある人たちの願いを叶えようと声をあげた、一人のデザイナーがいます。

ひとりの聴覚障害がある社員の提案から生まれた「LiveTalk」

【写真】真剣な表情でインタビューに応えるまつだよしきさん

富士通デザイン株式会社(以下、富士通デザイン)に入社し、現在は富士通株式会社(以下、富士通)で働く、松田善機さん。ご自身も、生まれた時から耳が聞こえない聴覚障害の当事者です。

松田さんが富士通デザインで働き出した当初、周囲のスタッフによる「要約筆記」の支援を受けながら会議などに参加していました。しかし、誰かに負担をかけたり遠慮したりすることなく、リアルタイムでみんなとコミュニケーションをし、共に働きたいという思いが強まります。

そんな松田さんの経験と提案がきっかけで、音声認識によるコミュニケーション支援のソフトウェア「LiveTalk」(ライブトーク)が生まれました。

LiveTalkは、発言者一人ひとりの声を音声認識し、発言を即座に翻訳・テキスト変換することで、発言内容を複数の端末にリアルタイムで翻訳・テキスト表示するダイバーシティ・コミュニケーションツールです。

これを使えば、聴覚障害のある人や外国語話者の人でも、筆記や通訳による支援を介することなく、リアルタイムで会話や議論に参加することができます。

今回のインタビューでは、LiveTalk開発の経緯や、ご自身のこれまでの生い立ち、そして、聴覚障害のある当事者の生活や仕事の課題解決にかける思いを松田さんにお話いただきました。

また、松田さんと同じチームで働き、LiveTalk開発以前に会議等での要約筆記のサポートをしてきた経験のある、土屋由美さん、深井みどりさんにもご同席いただき、ユニバーサルデザインを大切にする富士通の企業文化や、松田さんと共に働くなかで感じた、多様性を活かす働き方についてもお聞きしました。

【写真】真剣な表情でインタビューに応えるまつだよしきさん、つちやゆみさん、ふかいみどりさん

(左から松田善機さん、土屋由美さん、深井みどりさん)

会議参加はいつも3人一組で必死についていく。全員が自由に話せない状況をなんとかしたかった

soarライター・鈴木悠平(以下、鈴木):松田さん、今日はよろしくお願いします!

富士通・松田善機さん(以下、松田):よろしくお願いします。

鈴木:今日のインタビューでも、実際にLiveTalkを使いながらお話を伺えればと思います。前回イベントでご一緒した時に続いて2回目の使用なのですが、こうやって話していても、かなり正確に、リアルタイムで文字起こしをしてくれますね。

【写真】LiveTalkを使ってインタビューをするライターのすずきゆうへいと、文字起こしが表示されているパソコンを見るまつだよしきさん

鈴木:これも音声認識をはじめ、さまざまな技術と開発チームの方々の創意工夫があってのことだと思います。今日はまずはじめに、LiveTalkの開発の経緯や、そもそもの職場での問題意識や立案のきっかけについてお聞きできればと思います。

松田:私が入社したのは2008年のことなんですが、当時の職場では、私が唯一の聴覚障害者でした。そこでまず、上司と面談をして、聴覚障害のある人に対してどのようなサポートができるかというリストを渡してもらったり、実際にどんな場面で何を実施していくかの相談をしたりといったところからがスタートしました。

【写真】真剣な表情でインタビューに応えるまつだよしきさん

鈴木:前例はなかったとはいえ、入社当初から親身に相談に乗ってもらえたんですね。

松田:はい。そこで、会議の場では「要約筆記」といって、隣の人が会議の内容をパソコンで要約テキストにまとめてくれるサポートを受けられることになりました。

これで私も会議に参加できるようになって、とてもありがたかったんですけど、要約筆記というのはなかなか大変な作業なんですね。会議が1時間2時間と長時間に及ぶと、一人だけではとても集中力や筆記スピードが追いつかなくて。だから基本的には私のような聴覚障害者1人に対して2人の人が要約筆記についてくれるという、3人1組の体制を取るんです。

ですが、色んな人の発言を要約するのに集中していると、要約筆記を担当してくれている人はほとんど議論に参加することができなくなるんですね。支援を受けている私も、会議の内容はだいたい理解できるけど、要約筆記はリアルタイムではないので、どうしても「待ち」の時間が発生します。すると、私も要約筆記の人も、3人とも議論に参加することができなくなる。「これはどうにかできないか」と。

その時、当時技術開発が進んでいた音声認識の機能に注目して、これを使ってリアルタイムの会議ツールを作れないかと考えたのがLiveTalk開発のきっかけです。

【写真】質問に丁寧に答えてくれるまつだよしきさん

鈴木:なるほど…確かに僕たちライターも取材音源を文字起こしするので、要約筆記をする人の大変さはわかる気がします。みんなの発言を聞いて即座にテキストにまとめるのって、相当な集中力と要約力が求められますから。

松田:そうなんです。だから私もサポートをしてもらってありがたいと思う一方、すごく頑張ってもらっているから遠慮しちゃうというか、会議や筆記の内容についてあまり相談やリクエストをするのも申し訳ないという気持ちも、正直ありました。

富士通・深井みどりさん(以下、深井):要約筆記を担当する社員自体は複数名いて、「できる人がやろうよ」と、自然と分担や助け合いを当時から出来ていたと思います。誰かがサポートしないと松田くんも仕事ができないわけですから。

ところが、さすがに長丁場の会議となると、パソコンに打つことに一生懸命で会議にはまともに参加できず、終わったら頭が真っ白になってもぬけの殻…みたいな疲労感はありましたね。

【写真】LiveTalkを使ってインタビューに応えているつちやゆみさんとふかいみどりさん

富士通・土屋由美さん(以下、土屋):社内の打ち合わせだけでなくて、松田くんが外部に商談や出張に行く際も要約筆記者は同行するのですが、それぞれに仕事があるなか、要約筆記のためだけに2人もの社員が長時間同行するのはさすがに難しくて。その時は1人だけでついていって2時間3時間必死にタイピング…ということもありました。

鈴木:動けるメンバーで助け合いながら、3人一組での要約筆記体制を取っていたと。それでも、続けていく上では体力的・時間的な限界や困難があったんですね。

耳が聞こえない人も「一緒に」「リアルタイムで」話せることに、何よりもこだわった

松田:問題解決に向けた議論が本格化したのは、私が入社して2年目, 3年目の頃でした。

鈴木:開発に向けた議論や手法の検討はどのように進んでいきましたか。

【写真】インタビューに真剣に応えてくれるまつだよしきさんとLiveTalkを口元に持っているライターのすずきゆうへい

松田:大きく3つの方向性が検討されました。一つは手話の伝達・共有を簡単にするという案です。手話の内容をみんなに伝えたり、逆に周囲のみんなが手話を簡単に使えたりするためにはどんなテクノロジーの活用方法があるだろうかということを考えました。二つ目は、かなりの技術が要求される要約筆記を、みんなが簡単にできるようになるためにはどのようなツール補助が必要かという視点です。

そして、三つ目に検討されたのが、音声認識や字幕を通したコミュニケーションの支援です。音声情報を拾って文字で表すためにはどんな技術が必要かということを考えました。

鈴木:はじめは音声認識だけでなく、手話や筆記の簡易化・効率化といったアナログコミュニケーションを補助する形でのテクノロジー活用も検討されたんですね。その中で、音声認識でいこう、となった決め手は?

松田:やっぱり、リアルタイムで会話内容を追えるということが一番こだわりたかったポイントなので。みんなが話しているときに、「私はこう思う」という自分の声をリアルタイムに伝えて会話に参加できる、遠慮なく本音を伝えられるということに、聴覚障害当事者としては、すごく憧れがあったんです。

鈴木:本音を伝える……確かに、ワンテンポ会話に遅れると遠慮しちゃって言いたいことがうまく言えない、というのは誰しもあると思います。聴覚障害のある人も含めて、みんな一緒に、リアルタイムで議論に参加できるというのが大事だったんですね。

実際の開発にあたって、何か苦労された点はありますか。

松田:会議の場で実用できるレベルにするためには何が必要かといった議論や技術の応用に一番苦労しました。LiveTalkの構成要素のうち、音声認識ソフト自体は2008年にすでに販売されていた技術から応用して使っているんです。つまり、音声認識自体は当時から現在程度の性能は出せていたんですが、複数人で使用する際の個々人の声の認識精度を上げたり、リアルタイムでテキストを表示したりするための技術開発はまだまだでした。

音声認識の技術者の方々も「会議での応用は難しい」という印象を持たれていたのがスタート地点でした。なので、自分以外にも聴覚障害のある当事者の方をお呼びして、どのように困っているのかの調査・ヒアリングを行ったり、技術者の方と引きあわせるなど、そもそもの問題意識を共有するためにエネルギーを使いましたね。

鈴木:なるほど……

松田:対話を重ねる中で、「待っている間に参加ができないのがつらい」「完璧でなくてもいいから、後から他人に聞くのではなくその場で文字になって見えることが大事」といった聴覚障害当事者の方の思いが共有されていっていったのだと思います。やっぱりリアルタイムにこだわろう、と。そのような対話や試行錯誤を経て、今のLiveTalkができあがったんです。

【写真】LiveTalkの完成を嬉しそうに話すまつだよしきさん

「ドラえもんのひみつ道具みたい」一人ひとりが自分の言葉で話せる喜びが、職場全体に広がった

鈴木:LiveTalkが完成したことによって、松田さんをはじめ聴覚障害のある人たちや、周囲の人たちのコミュニケーションや働き方はどのように変化しましたか?

松田:やっぱり、誰かに頼ったり一人で待ったりすることなく、それぞれが自分のタイミング、自分の言葉で話すことができる、というのが一番嬉しかったですね。

聴覚障害のある当事者として、音声認識でのリアルタイム会話はずっと憧れだったんです。ドラえもんのひみつ道具に「ききがきタイプライター」という、まさにLiveTalkのような機能を持った道具があるんですが、同じく聴覚障害のある友人も「ドラえもんの漫画が本当になったみたい!」と喜んでくれました。

深井:松田くんのような聴覚障害当事者の方々だけでなく、要約筆記などでサポートする側にとってもすごく便利でした。今まで、要約筆記で必死だったところも、自分も会議の内容を頭に入れて議論に参加する余裕ができました。あとは、会議参加者全員にとって良かったこととして、LiveTalkの会話ログが残るので、会議の議事録を作るのが簡単になりましたね。

松田:もちろん、コミュニケーションのあり方には色々な手段があっていいと思いますし、聴覚障害当事者の中でも、一人ひとり得意なコミュニケーション方法は違います。やっぱり手話通訳がいいという人もいるし、LiveTalkのような文字情報は苦手だという人だっています。そういった違いは前提とした上でも、“これまでになかった”選択肢を増やすことができたのは、意味があったのかなと思います。

【写真】笑顔でインタビューに応えるつちやゆみさん

土屋:やっぱり要約筆記を担当する側も、完璧に書けなければならないという変なプレッシャーや責任感みたいなものもあったのですが、LiveTalkなら全員が同じテキストを見ながらその場で修正できますから、だいぶ気持ちも楽になりましたね。

松田:変わった言い方かもしれませんが、人間ではなく機械だからこそ遠慮せず頼れるという思いがあります。自分でもこのLiveTalkの性能や限界は分かった上で使っていますから、会議中に何か不具合やわからないことがあっても、自分の責任と行動で「この部分、なんて言いましたか?」などと周囲と必要なコミュニケーションをとっていけるんです。

鈴木:なるほど……確かにこのインタビューをしている中でも、僕が話した内容がそのままうまく変換されないこともありましたが、お互いに同じ画面を見ながら会話しているので自分たちでチューニングしていける感覚がありますね。何か1つ変換ミスがあったとしても、「あ、でも松田さんにはニュアンスは通じてそうだな」というときもあれば、「ちょっとこれだと通じないだろうからもう一度話してみよう」とか「同じ意味で聞き取りやすそうな言い回しに変えてみようかな」といった判断をしながら、その場で自然と工夫をすることができました。

松田:そうですね。100%正しく完璧に読めたり聞こえたりする世界を追求するというより、「これはどういうことか」ってお互いに確認しながらコミュニケーションを取れる、その共通の土台にLiveTalkがなってくれているんだと思います。

人一倍の努力を重ねても結果が出ない。閉塞感を打破してくれたのは“デザイン”との出会いだった

鈴木:これまでお話を聞いていて、LiveTalkのエピソードは、松田さん自身を含め、聴覚障害のある当事者の経験・意見がとても良い形で商品開発に活かされた事例だなと感じました。そのような風土・文化のある富士通デザインと松田さんがどのようにして出会ったのかが気になります。松田さん自身の生い立ちや就職の経緯を教えていただけますか。

【写真】質問に丁寧に応えてくれるまつだよしきさん

松田:私は、生まれつき耳が聞こえないタイプの聴覚障害なんです。なので、中途障害の方と違って自分自身で実際に音を聞いたことはありません。いま私が話せているのは、幼稚園の頃から朝から晩まで、親や先生から厳しい発音訓練を受けてきたからで、聴覚障害の人が全員発声できるわけではありません。

聴覚障害の人のコミュニケーション方法や習得に関しては、いろんな考え方があります。私の場合は、あまり早くから手話を使うのはよくないという考えの中で育ち、学校も通常学級へ進学しました。

授業も当然耳では聞こえないので、先生の話は読唇(どくしん)といって口の動きからなるべく理解して、あとは教科書と板書の内容で勉強することをしていました。

鈴木:なるほど。そうするとクラスメイトが何を話しているかも聞き取れないわけで、友人関係を作るのにも苦労があったのかなと思うのですが……

松田:これは私の性格だと思うのですが、何が起こっているかわからなくなる前に、どんどん自分から話しかけていくようにしていました。そうすると、みんなもだんだん、口の動きや身振り含めて、どうすれば私に伝わるかがわかるようになってきて、向こうからも遊びに誘ってくれるようになりました。

お互いに試行錯誤をする雰囲気があったんだと思います。特に仲良しのグループもできて、授業などでわからないことがあったら彼らに教えてもらっていました。

鈴木:自分からどんどん積極的にコミュニケーションをしていったと。

土屋:松田くんは富士通に入った当初から、人懐こいキャラクターですぐみんなと打ち解けていきました。私も、聴覚障害のある人が入社すると事前に共有を受けた時は、「どんなふうにサポートすればいいだろう」と不安で色々準備していたんですが、会ってみるとその不安はすぐに吹き飛びましたね。

深井:富士通デザイン自体が、もともとユニバーサルデザインを大事にしてきた歴史や文化を持っていることもあると思うのですが、お互いが自然体でサポートし合いながら仕事をできてきたのは、松田くん自身のオープンな性格も大きかったと思いますね。

【写真】微笑んでインタビューに応えるふかいみどりさん

鈴木:そうだったんですね。松田さんのその物怖じしないオープンな性格って、どうやって形成されたんでしょう?

松田:私自身はあまり「これ」という自覚はないのですが…いま振り返ると、父も母も、「自分から話しかける」ことができるような関わりをしてくれていたのかもしれません。たとえば家で父と母が話している時も、必ず私から口の動きが見える位置にいてくれて、2人の会話に入っていくことができました。そういう経験があるから、逆に「みんなの会話には入れない」ことに違和感があったのかもしれません。

そうやって、友達とのコミュニケーションについてはあまり問題がなかったんですけれど、やっぱり中学・高校と進学していくにつれて勉強に関してはどうしても限界が出てきました。学校では情報保障の仕組みもないので、とにかく自分だけの力で勉強するのは…なかなか結果が出なかった。

将来社会に出て働くということを意識すると、このまま必死でみんなと同じ勉強をするのではなく、自分のやりたいことや得意なことで仕事を見つけた方が良いのではないかと考えるようになりました。

【写真】LiveTalkを使って会話をしているまつだよしきさん、つちやゆみさん、ふかいみどりさん

鈴木:耳が聞こえない中で、みんな以上に勉強をして、同じ土俵で頑張ってきて…だからこそ限界も感じたし、得意なことで戦っていくことを意識するようになったと。そこからどういう進路を選ばれたんですか。

松田:筑波技術短期大学(現在は筑波技術大学)という聴覚障害のある人だけを対象とした大学があるのですが、そこでデザインを専攻しました。僕の好きなこと・得意なことは「絵を描くこと」だったんですが、当事は絵画もアートもデザインも一緒くたの認識だったんですね。「絵が描ける学科だ」と思ってデザイン科を受けたんです(笑)。

実際に入ってみると全然違ったわけなんですが…授業で「障害のある人たちの問題を解決する手段として、デザインの力が重要なんだ」ということを教わる機会があって、そこからデザインへの興味も強くなっていったんです。筑波技術短期大学で3年間学んだ後、より専門的にデザインを学ぼうと思って武蔵野美術大学に編入しました。

鈴木:絵を描く学科だ!とちょっと勘違いして入ったというのは面白いですが(笑)、その大学の授業がきっかけで、デザインの領域に興味を持たれたんですね。その後の就職活動、富士通デザインへ入社するまではどうでしたか?

松田:全部で15社ぐらい受けたんですが、ほとんどダメで。そのときは障害者雇用枠、一般枠という区切りも知らなくて、一般入社枠で申し込んだんです。

書類選考は通ったけれど、面接で耳が聞こえないことがわかって断られる、というのが半分くらいありました。そういう経験を繰り返した後に受けたのが富士通デザインだったんです。

ここでも「やっぱり難しいかな」と思いながら面接で聴覚障害があることを伝えたのですが、「面接ができるように、別途、対応方法を考えて連絡するのでまた来てください」って言っていただけて。担当の方が情報保障の方法について詳しく聞いてくださった上で、面接が設定されました。今まで受けた中で富士通デザインだけだったので、嬉しかったですね。

鈴木:面接で何度も断られた後に…それは本当に嬉しいですね。

松田:さらに驚きなのが、面接に行ったらいきなり社長が現れたんですよ。それで、「いまユニバーサルデザインに関してこういうことをやっているけど興味はあるか」とか「これまでこういうことをやってきたけど、デザインとしてどう思うか」といった質問をたくさんされて。“聴覚障害者”が働くのは大丈夫かといった心配ではなく、まっすぐにデザインのお話をさせていただけたのも嬉しかったです。

【写真】当時のことを思い出し、涙ぐんで話すまつだよしきさん

鈴木:社長自ら!なんとも素敵な時間ですね。まさに運命的といえる出会いだったと思います。

もっと多様な人が働ける社会へ、自分自身の行動で変えていきたい

鈴木:LiveTalkの開発は、松田さん自身のキャリアにとっても、聴覚障害のある人の働く可能性を広げるという意味でも、大きな経験だったのではないかと思います。今後は、どのような挑戦をしていきたいですか。

松田:技術的なチャレンジとしては、引き続き「音の可視化」という領域にチャレンジしたいと思っています。会話だけでなく、周囲の環境で起こっている音をいかに「見える化」するかということに関心があります。

【写真】質問に丁寧に応えてくれるまつだよしきさん

松田:私の後ろで色んな人や物が動いていても、見えていないし聞こえていない私にとっては背後は“真っ暗”な空間なんです。たとえばドアが開いたとしても見えていなければわからない。周囲の音を意識しながら、聴覚障害のある人がどう生活していくのか。そうした課題にデザインの力で挑んでいきたい。

土屋:障害のない人では気づけない課題を聴覚障害当時者ならではの視点で指摘してくれるので、松田くんがいることは、製品開発上の強みになっています。LiveTalkの開発では、私たちが松田くんに情報を伝えたいというニーズだけでなく、松田くんの側からも伝えたい情報があって、双方向コミュニケーションをするためにどのような機能が必要か、という視点で有意義な議論がなされたと思います。

【写真】LiveTalkを使って会話をするまつだよしきさん、つちやゆみさん、ふかいみどりさん

松田:もう一つはやっぱり、聴覚障害当事者のキャリアについての問題意識はあって、もっと色んなモデルを作って発信していかなきゃいけないと思っています。私のようにサポートも充実した環境で働けている人って、正直まだまだ少数派だと思うんです。

それから、聴覚障害当事者が部下を持ってマネジメントをする立場になった時にどうするのかとか、チームや組織で働く中でのキャリアアップの道筋をどのように作るかというのも難しい問題です。聴覚障害のある当事者がどうやって働いていくか、まだまだモデルが少ないと思うので、自分自身の例も含めて、色んな方法を探して発信していきたいと思います。

鈴木:おっしゃる通りですね。松田さんのように活躍されている人の事例を、soarでももっと発信していければと思います。今日はどうもありがとうございました!

【写真】街頭で笑顔で立っているまつだよしきさんとライターのすずきゆうへい

待つのではなく、リアルタイムで、自分の言葉で一緒に会話したい……LiveTalk開発の背景には、松田さんをはじめとする聴覚障害当事者の方々の願いと、ユニバーサルデザインを当たり前の前提としていこうとする、富士通デザインの企業文化がありました。

製品開発に障害当事者の視点が活かされた結果、誰にとっても使いやすいユニバーサルな製品が生まれたり、誰もが働きやすく、気がねなくコミュニケーションができる文化が育ったり…障害のある人もない人も、同じチームとして共に働くことは、きっと私たちが働く職場を、より良い環境へと進化させてくれるはず。

一方で、聴覚障害をはじめ、まだまだ障害のある人のキャリア形成や働く環境づくりには課題が多いのも事実です。

LiveTalkをはじめとしたテクノロジーの開発や、障害のある人たちが活き活きと働いている企業の事例、多様なキャリアのあり方について、今後soarでも発信を続けていきたいと思います。

関連情報
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(写真/モリジュンヤ)